お茶汲み
楠寮では上級生がお茶を飲んでコップが空になると
すかさず1年生が「お茶、いりますか」と尋ね、いる場合は
コップに注ぐ、という慣例があった。誰がするということもなく、
気付いた人間がするのだが、あんまり気付かない1年生は
やはり上級生にいい顔をされないので、緊張感があった。
常に食事をしながらも先輩の動向を窺い、コップの傾き具合から空に
なるのを素早く察知し、すかさずヤカンに手を伸ばす。
ヤカンが向かいの部屋のテーブルにある場合は、走って取りに行く。
それを知っていて、わざとコップを深めに傾けていかにも
飲み干したように見せかけ、一年生がヤカンを構えると
テーブルに中身の入ったコップを置いてみせるという上級生もいた。
むろん、当人はふざけているだけなのだが、鬱陶しいことだった。
注がれる側になってみると、食事中常に一年生が手元を
見ているのが感じられて、あまり気分のいいものではなかった。
馬鹿馬鹿しい風習なので、今はもう残っていないだろう。