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車中にて

脚が熱い。座席の下から出てくる熱風は、いったいどうやって生み出されているのか。私は熱から逃れようとして、無駄な身じろぎをした。

地方都市へと向かう電車内は、休日の午後3時という時間帯のせいもあって空いていた。ほとんどの乗客が座り、2~3人の乗客がドアにもたれて立っているという状態だ。

電車が駅に到着する。開いたドアから話し声が入ってくる。読んでいた雑誌から目を上げると若い男が二人、乗り込んでくるところだった。二人は会話しながら車内を見渡して空席を探し、 すぐに諦めると斜め向かいのドアの前へ、こちらへ背を向けて立った。

二人はどちらもジーンズを履き、スタジアムジャンバーを着ている。一人は背が高く、180cmは超えているだろう。少し猫背気味で、相手の男へ向かって話しかけている。私はすぐに興味を失い、再び雑誌へ目を落とした。ゆったりとした揺れと共に、電車が発車する。

私は車内唯一の話し声を聞き流しながら、しばらく雑誌に没頭する。少しして顔を上げ、中吊りを眺めてから車窓(線路際に迫り来る家の壁ばかりだ)を眺める。それから車内に目を転じ、違和感を覚えた。あの二人組にだ。

私は二人の男を凝視する。何かがおかしい。二人は私に背を向けたまま、無遠慮な視線には気付かない。

宙を見据える私を、向かいに座った女性が不審そうに盗み見る。女性は隣に座った小さな男の子を体にすがりつかせ、携帯電話を手にしている。

おおかた、気のせいだろう。少し疲れているのかもしれない。あるいは、車窓から射し入る緩慢な午後の日差しと、車内に灯る電灯の交錯が生み出した錯覚か。

私は再び雑誌に目を落としたが、それまでのように集中できない。気が付けば違和感の正体をあれこれ探してしまっている。二人の喋る声が小さく、あるいは日本語ではないのかもしれないという気がしてくる。しかしそれは違和感を生むほどのことではない。それでも、二人の喋っているのが日本語かどうか、判断しようとして耳を済ませてしまう。聴けば聴くほど、よく判らなくなってくる。脚が熱い。

私はもう一度、二人を見た。やがて違和感の正体に気付く。背の高い方の男の身長が、わずかに伸びている気がする。私は雑誌に目を戻し、少ししてまた二人を見た。今度は意識していたので間違いない。男の身長はさっき見たときよりもさらに伸びていた。

視線を外し、少しして見るたびに男の身長は僅かずつ伸びていった。もう一人は変わらない。吊革を握った手の肘の角度や、猫背の度合いが大きくなっていく。男はいったん吊革から手を離し、体勢を変えて握りなおす。

そんなことを繰り返すうち、とうとう男の頭は天井へ届きそうになってしまった。男は今や頭をうつむけ、苦しそうな姿勢になっている。一瞬だけ、男は肩越しに振り返って私を見た。その目に浮かぶ懇願の色を私は無視して雑誌に目を向け、期待を込めて男を見る。

後頭部が天井へぶつかる、小さな音が聞こえた。


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