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金魚すくい

キティちゃんのお面が割れている。誰かが落としたものを踏み潰したのだろう。浴衣を着た人の流れがそこだけ避けて進んでいる。小さな女の子がお面を指差し、手を繋いだ親に何かを喋っている。

数年ぶりの帰郷。最後に夏祭りを訪れたのはそれよりもさらに前のことだ。しばらく来ないうちに出店の顔ぶれもずいぶんと変わっている。私は「神戸牛焼肉」と書かれた屋台を、感慨を込めて眺める。

社殿のすぐ傍、他の屋台から少し離れた所に金魚すくいの屋台が出ていた。客はおらず、主らしき初老の男が水槽の向こうに座っている。私は違和感を覚え、立ち止まる。

違和感の正体はすぐに判った。たしか、境内に入ってすぐの所にも金魚すくいの屋台はあったはずなのだ。そんなに大きな祭りでもなし、金魚すくいの店が二つもあるものだろうか。私はその出店へ歩き寄った。店は別段、古いというのでも、新しいというのでもなかった。たとえ目にしても記憶に残らないような平凡な店構えだ。店主はこちらへ声を掛けるのでもなく、目をつぶって座っている。ラジオでナイターの中継を聞いているのだ。私は水槽を覗き込む。

背の低いステンレスの水槽には発色も鮮やかな和金が泳いでいた。絹布のような尾鰭胸鰭がゆったりとそよいでいる。無機質な銀灰色の水槽に、金魚の朱は際立って見えた。そういえば、子供の頃すくった金魚は最後にどうなったんだろう。長生きしなかったのは憶えているが、死んだ金魚を処分したような記憶もない。家に来た金魚たちの末路を思いながら、私はぼんやりと金魚を眺めていた。群れになった金朱の魚影が漠然と視界の中で蠢く。

何かがおかしい。不意に私は、目の前の光景に不自然さを感じる。私はぼやけた焦点を手前に合せた。そしてそのまま、金魚を見詰める。屋台の照明の加減か目を凝らすと金魚たちの輪郭は溶け出すようで、なかなかはっきりしない。私は瞬きを繰り返し、どうにかその一匹を捉えようとする。

そんな努力を続けるうち、急に視界が鮮明になった。舌だ。体や鰭と似たような色をしているため気付かなかったのだが、金魚はどれも、口の先から確かに桃色の、やけに血色のよい小さな舌をはみ出させているのだ。

あまり見ているとこちらの舌まで口の外へはみ出してきそうな気がしたので、私は無言でその場を後にした。


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