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よく似た話、2篇

その1

外出から戻り、私は居間でくつろいでいた。座布団に座り畳の上に手足を投げ出していると、体の熱や疲れが藺草(いぐさ)の中に吸い込まれていくようだった。

目の前の机の上では、湯飲みに入ったお茶が冷め、静かにたたずんでいる。すでに日暮れ時は過ぎ、部屋には宵闇が訪れている。明かりを点けようと思ってはいるのだが、なんだか億劫でそのままぼんやりしている。

何気なく畳の上で手を滑らせると、何かに触れた。手にとって顔の前へ寄せてみると、それは尾頭付きの車海老だった。

おそらく昼間、妻がここでテレビでも観ながら殻剥きをしていて、一尾落として気付かなかったのだろう。長年連れ添ってきた妻の、娘時分と変わらぬそそっかしさに思わず笑みが浮かぶ。

手の中の海老は滑らかな殻の奥に引き締まったみずみずしさを感じさせ、手の熱を吸って仄かに温もっている。透明感のある黒が腹へ向かうにつれて薄まり、小さな黒点が散りばめられた境界帯を越えると、落ち着いた白一色になる。これのいったいどこに、あの鮮やかな淡朱色を隠しているのだろうか。

さて、妻にこれを持って行ってやろう。そのとき交わされる冗談交じりのやりとりを想像すると、気持ちの中に暖かさが拡がる。

立ち上がろうとして畳へ突いた手に力を込めると、妙な弾力があった。自然と視線を転じると畳の縁は木枠に変じ、その枠の中へ背を上にして殻付きの海老が整然と敷き詰められている。

目の錯覚だろう。動いた視界の中で手にした海老と、暗さで曖昧になった畳とが混ざり合ってそんなふうに見えたのだ。畳表は海老の背に似ているではないか。だが目をこらすと、確かに畳は並んだ海老に変わっている。下になった腹の白さが、宵闇の中で目に鮮やかだ。

私は呆然としながらも身を乗り出し、床へ顔を近づけた。と、一カ所だけ海老1尾分の隙間が空いている。ちょうどさっき、海老を拾い上げた辺りだ。

何かを考えるより早く、私は手にした海老をその穴へそっと押し入れた。すると--

「あなた、起きて」
その声に私は顔を上げた。ぼんやりした頭で、どうやら寝ていたらしいことに気付く。手枕をして机に突っ伏していたらしく、両の手が軽くしびれている。日はすっかり暮れ、居間は明かりに包まれていた。周囲を見回すと畳はいつもと変わらず、使い込まれた面を見せている。

机の上にはちょうど突っ伏していた私を避けるような形で食器や鍋敷き、小鉢に盛った料理などが並べられていた。
「どうしたの?その顔……」妻は心配そうに口を開き、何かに目を留めた。「あら、その手」
言われて見ると、私は右手に殻付きの海老を軽く握っていた。海老はすっかり暖まり、手の皮膚によくなじんでいた。
「ああ、うん」私はなるべく威厳を保とうとしながら、海老を机の上に置いた。「落ちてたぞ」
「だからって、手に持ったまま居眠りしなくても」妻は笑った。「おかしな人」
その声に先ほどの風変わりな夢は遠のき、現実感がもたらされた。妻につられて私も照れ笑いを浮かべる。
「さ、お夕飯にしましょ」
妻はそう言うと、両手で持っていた土鍋を鍋敷きの上に置いた。そうして細い指と小さな手のひらをいっぱいに開き、土鍋の蓋をつかんで持ち上げた。暖かな旨味を含んだ湯気が昇り、その向こうに並んだ海老の淡朱色が見えた。

その2

外出から戻り、私は居間でくつろいでいた。座布団に座り畳の上に手足を投げ出していると、体の熱や疲れが藺草(いぐさ)にまで染み出していくようだった。

目の前の机の上では、湯飲みに入ったお茶は冷め切って、僅かに2、3片の埃を浮かせている。すでに日暮れ時は過ぎ、部屋には宵闇が沈殿している。明かりを点けようと思ってはいるのだが、なぜだか酷く面倒だと思っているうちに暗くなってしまったのだ。

何気なく畳の上で手を滑らせると、何かに触れた。手にとって顔の前へ寄せてみると、それは尾頭付きの車海老だった。

昼間、妻がここでテレビでも観ながら殻剥きをしていて、一尾落として気付かなかったのだろうか。長年連れ添ってきた妻は時折、娘時分と変わらぬそそっかしさを覗かせる。私は口元が笑みの形になるのを感じた。

手の中の海老はプラスチックのような殻の奥に、生々しい肉の弾力を感じさせた。殻の奥から染み出してくる液体に、手が痒みを覚える。少しにじんだ黒が腹へ向かうに連れて小さなシミのようになり、腹からは薄い灰白色が伸びている。中に何を隠し持っていれば、これがあんな鮮やかな色に変わるのだろうか。

さて、妻にこれを持って行ってやろう。そのとき交わされる会話を思うと、気持ちの中に場違いな熱っぽさが拡がる。

立ち上がろうとして畳へ突いた手に力を込めると、妙な弾力があった。自然と視線を転じると畳の縁は木枠に変じ、その枠の中へ背を上にして殻付きの海老がびっしりと詰まっている。

目の錯覚だ。動いた視界の中で手にした海老と、闇が沈殿した畳とが混ざり合ってそんなふうに見えたのだ。そこでふと、畳表がどこか海老の背を思わせることに気付いた。目をこらすと、確かに畳は無数の海老に変わっている。下になった腹の白さが、宵闇の中で妙に目立っている。

私は何も考えられないまま身を乗り出し、床へ顔を近づけた。海老独特の臭いが顔を覆う。と、一カ所だけ海老1尾分の隙間が空いている。ちょうどさっき、海老を拾い上げた辺りだ。

まるで他人が操っているかのように、私は手にした海老をその穴へ押し込んだ。海老は縁に引っかかり、殻が中途半端にめくれてしまった。すると--

「あなた、起きて」
その声に私は顔を上げた。ぼんやりした頭で、どうやら寝ていたらしいことに気付く。手枕をして机に突っ伏していたらしく、両の手が軽く感覚を失っているている。日はすっかり暮れ、居間は白々と明かりに照らされていた。周囲を見回すと畳はいつもと変わらず、やや色褪せて擦り切れかかった面を見せている。

机の上にはちょうど突っ伏していた私を避けるような形で食器や鍋敷き、小鉢に盛った料理などが並べられていた。
「どうしたの?その顔……」妻は怯えたように口を開き、何かに目を留めた。「あら、その手」
言われて見ると、私は右手に殻付きの海老を軽く握っていた。海老はすっかり暖まり、まるで温血動物のようだった。
「ああ、うん」私はなるべく落ち着こうとしながら、海老を机の上に置いた。「落ちてたぞ」
「だからって、手に持ったまま居眠りしなくても」妻はやや神経質そうに笑った。「おかしな人」
その声に先ほどの奇妙な夢は遠のき、ようやく意識がはっきりしてきた。妻につられて私は苦笑する。
「さ、お夕飯にしましょ」
妻はそう言うと、両手で持っていた土鍋を鍋敷きの上に置いた。そうして骨の浮いた指と小さな手のひらをいっぱいに開き、土鍋の蓋をつかんで持ち上げた。湿気と雑多な匂いを含んだ湯気が辺りに漂い、その向こうに具材へ埋もれた海老の、赤白まだらになった背が見えた。


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