目の前で、女が泣いている。女は毛足の長い葡萄色の絨毯の上へ座り、両手で顔を覆っている。私は変に柔らかなソファへ座り、女を見ていた。
部屋は豪奢な洋間であったが、私には見覚えのない場所だった。女も同様で、私にはそれが誰だか判らなかった。ただ、考えさえすれば、もう少しで思い出せそうな、そんな気もした。
立ち去ってしまいたかったのだが、なぜだか女が泣いているのは自分に責任があるようにも感じられ、私は捉えどころのない座り心地のソファに身を沈めていた。
居たたまれなさを感じながら、私は女に声もかけられなかった。壁に掛けられたやけに大きな柱時計の振り子の音が眠たく響いている。
それまで泣いていた女がふいに泣き止んだ。きつい眼差しでこちらを睨む。
「大福小福、ぼん屋のせがれ」
そう言うと女は着物の袂から大福を取り出すと私に向かって投げつけた。大福は一瞬だけ私の頬に張り付くと、床に落ちた。
女は次から次へと大福を取り出し、投げつける。私は膝の上に乗った大福を一つ手に取ると囓ってみた。間延びした歯ごたえと共に苦々しい甘味が舌を包む。なぜだか知らないが、両目から涙が溢れ出した。
相変わらず大福の当る感触があるのだが、涙に滲んだ目には何も見えなくなっていた。