「空也上人像」じゃないけれど、この頃喋ると、言葉が小さなタコになって地面に落ちる。タコ達は小さな触手をねろつかせながら、緩やかに宙を舞い、地面に落ちるとやがて消えてしまう。
見ていて暑苦しいし気味も悪いので何とかしてしまいたいのだけれど誰がどう出来るというものでもない。おまけに最近ではトイレに置いてある芳香剤の「フレッシュフローラル」の嘘くさい香りまで放つようになってしまい、ながながと喋っていると息が詰まりそうになる。
空中のタコに手を伸ばして触れてみると、地面に落ちたときと同様、手に触れた端からタコはぬめぬめした感触を残してそのうち消えてしまう。電話で話していたりすると、受話器の送話口の部分にタコが際限なく溜まり、ちょっと湿った吸い付く感じと強烈な芳香とが一体となって気分が悪くなる。しかも、溜まりきれなくなったタコは受話器と口の隙間から下へ向かって溢れ落ちるのだから、見ているだけでゲンナリする。
おまけに僕は花粉症だった。春先、マスクは手放せない。マスクをしたまま会話をしていると、たちどころに滑舌が悪くなる。そうなると僕は相手との会話を中断してマスクの下をめくる。口いっぱいに溜まったタコが半ば押しつぶされそうになりながらそこから外へ押し出されてくる。
タコによってもたらされるささやかな、深刻な沈黙。てちゃてちゃという音を立てて床に落下するタコを相手は見詰める。